不育症・習慣流産のみなさんへ
不育症における抗リン脂質抗体標準化の試み
唯一とも言える治療できる病因である抗リン脂質抗体について正しく測定し、正しく治療ができていないことが本邦の不育症医療の問題です。抗リン脂質抗体は測定法が多くあり、独自に検査をしている施設はほとんどなく、委託検査は産科的有用性が明らかにされていません。
産科的有用性とは、
- その検査が陽性の時に抗凝固療法を行うと出産率が上昇する。
もしくは、
- 陽性の時に無治療だと出産率が悪い。
ことをいいます。
個々の検査法について産科的有用性が確認されていません。私たちは、委託可能な検査の産科的有用性の確認が急務であると考えました。平成23-25年度厚生労働省北折珠央研究班として、「不育症における抗リン脂質抗体測定法の標準化」の検討を行いました。11種類の検査法について560名の不育症患者さんの協力によって研究を行いました(文献14)。
ループスアンチコアグラント(リン脂質中和法:LA-APTT StaClot 社、表12)の検査会社の基準値は当時6.3秒でしたが、これを用いると既存の方法で陽性例に含まれます。
国際学会が推奨する健常人99パーセンタイル(1.59秒)を用いた場合に産科的有用性が確認されました。リン脂質中和法は欧米では頻用されていますが、日本では13%の施設しか実施していません(文献6)。現在リン脂質中和法(LA-APTT StaClot社)は検査会社の都合により測定できなくなりました。リン脂質中和法(LA-APTTアイ・エル・ジャパン株式会社)の測定が可能です。LAは測定条件によって変動するため、不育症患者さんにとって有用かどうかを今後調べる必要があります。
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成功率 % (n) |
多変量解析 | 染色体異常 を除いた 成功率 (n) |
染色体異常を除いた多変量解析 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
OR (95% CI) | P-value | OR (95% CI) | P-value | ||||
StaClot > 1.59 99th percentile |
陽性・無治療 | 58.8% (10/17) |
Reference | 71.4% (10/14) |
Reference | ||
陽性・治療 | 82.4% (14/17) |
4.99 (0.77-32.39) |
0.09 | 93.3% (14/15) |
53.58 (0.938-3061.24) |
0.05 | |
陰性 | 70.7 % (260/367) |
1.72 (0.63-4.67) |
0.29 | 79.5 % (260/326) |
1.57 (0.47-5.24) |
0.46 | |
StaClot > 1.0 98th percentile |
陽性・無治療 | 59.3% (16/27) |
Reference | 66.7% (16/24) |
Reference | ||
陽性・治療 | 85.7% (18/21) |
6.84 (1.21-38.61) |
0.03 | 94.7% (18/19) |
32.95 (1.76-616.95) |
0.02 | |
陰性 | 70.9% (254/357) |
1.76 (0.78-3.94) |
0.17 | 80.1% (254/316) |
2.11 (0.86-5.21) |
0.11 |
抗フォスファチジルセリン・プロトロンビン抗体も産科的有用性が確認されました(表13)。しかし、この抗体はまだ報告が少なく、国際学会にも診断基準として認められていません。また、北海道大学との共同研究で測定されたものであり、委託検査できる抗フォスファチジルセリン・プロトロンビン抗体が産科的に有用かどうかは現在検証中です。
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成功率 % (n) |
多変量解析 | 染色体異常 を除いた 成功率 (n) |
染色体異常を除いた多変量解析 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
オッズ比 (95% CI) |
P-value | オッズ比 (95% CI) |
P-value | ||||
aPS/PT IgG > 1.2 | 陽性・無治療 | 50.0% (5/10) |
Reference | 50.0% (5/10) |
Reference | ||
陽性・治療 | 73.3% (11/15) |
2.49 (0.38-16.26) |
0.34 | 84.6% (11/13) |
4.99 (0.58-42.72) |
0.14 | |
陰性 | 71.2 % (264/371) |
2.61 (0.73-9.35) |
0.14 |
80.7 % (264/327) |
4.48 (1.23-16.13) |
0.02 |
国際学会も推奨する抗カルジオリピン抗体IgGやIgMは色々な基準値で検討しましたが産科的有用性はありませんでした(表14,15)。これについて、産科的にはLAのほうが重要であるという質の高い論文が複数報告されています(文献15)。
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成功率 % (n) |
多変量解析 | 染色体異常 を除いた 成功率 (n) |
染色体異常を除いた多変量解析 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
オッズ比 (95% CI) |
P-value | オッズ比 (95% CI) |
P-value | ||||
CL IgG >23.8 | 陽性・無治療 | 64.3% (9/14) |
Reference | 69.2% (9/13) |
Reference | ||
陽性・治療 | 68.4% (13/19) |
1.41 (0.29-6.76) |
0.67 | 72.2% (13/18) |
1.60 (0.27-9.62) |
0.61 | |
陰性 | 70.6% (274/388) |
1.36 (0.44-4.17) |
0.60 | 80.4% (274/341) |
1.83 (0.54-6.17) |
0.33 | |
CL IgG >10 | 陽性・無治療 | 74.4% (32/43) |
Reference | 82.1% (32/39) |
Reference | ||
陽性・治療 | 61.1% (22/36) |
0.624 (0.23-1.71) |
0.36 | 68.8% (22/32) |
0.56 (0.17-1.87) |
0.35 | |
陰性 | 69.9% (251/359) |
0.81 (0.39-1.67) |
0.56 | 79.7% (251/315) |
0.87 (0.36-2.07) |
0.75 |
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成功率 % (n) |
多変量解析 | 染色体異常 を除いた 成功率 (n) |
染色体異常を除いた多変量解析 | ||||
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オッズ比 (95% CI) |
P-value | オッズ比 (95% CI) |
P-value | ||||
CL IgM >29.9 | 陽性・無治療 | 80% (4/5) |
Reference | 80% (4/5) |
Reference | ||
陽性・治療 | 100% (3/3) |
- | - | 100% (3/3) |
- | - | |
陰性 | 70.3% (279/397) |
0.56 (0.06-5.21) |
0.61 | 80.7% (279/349) |
1.00 (0.11-9.45) |
1.00 | |
CL IgM >10 | 陽性・無治療 | 65.9% (27/41) |
Reference | 79.4% (27/34) |
Reference | ||
陽性・治療 | 78.6% (11/14) |
1.87 (0.44-7.93) |
0.40 | 84.6% (11/13) |
1.35 (0.24-7.77) |
0.74 | |
陰性 | 70.9% (256/361) |
1.24 (0.62-2.48) |
0.54 | 80.0% (256/320) |
1.04 (0.43-2.51) |
0.93 |
名古屋市立大学の従来法と産科的有用性を持つリン脂質中和法、抗フォスファチジルセリン・プロトロンビン抗体との関係を図16に示しました。陽性率が低くても産科的有用性の確認された検査を複数組み合わせて検査することで過不足の少ない不育症医療が実現できると考えています。
抗リン脂質抗体症候群は妊娠中に血栓症を起こしやすいだけでなく、若年性脳梗塞、心筋梗塞を起こしうる難治性疾患です。ご自身が本当に抗リン脂質抗体症候群かどうか主治医に確認しましょう。
リン脂質中和法とaPS/PT IgGはどちらも有用な検査法であるが検出する患者が異なる
→両方とも測定した方が取りこぼしが少ない