研究グループ

不育症・習慣流産のみなさんへ

原因不明の原因探索

1990年から遺伝子多型の研究が行われ、反復・習慣流産関連遺伝子が187個以上報告されています。遺伝子多型とは1%以上の頻度でみられる遺伝子変異のことです。凝固系のみならず、免疫系、サイトカイン、内分泌系、代謝系の遺伝子多型と関与していることが報告されています。
アネキシンA5は胎盤に豊富にあり、凝固を抑制していることがわかっています。このANXA5遺伝子多型頻度が習慣流産患者において健常人よりも高いという論文が4つありました。私たちも同じ研究を行い、SNP5が患者さんにおいて高頻度であることを確認しました。しかし、次の妊娠ではこの変異が有ってもなくても出産率は全く差がないことがわかりました(文献39)。したがって、この遺伝子変異を持つ方にヘパリン投与を行う必要はありません。不育症の患者さんにおいてある変異の頻度が高いこととその変異を調べて治療のメリットがあることは違います。

この例が示す通り、流産に関係する遺伝子はたくさん存在しますが、個々の遺伝子変異の流産への影響力は大きくありません。原因不明は多因子遺伝によるものと推定します(図36)。
187以上の遺伝子の500か所以上の遺伝子多型が不育症・習慣流産と関係すると報告されています。ひとつひとつの遺伝子多型の影響は小さく、それを調べて治療すると出産率が上昇することは示されていません。

図36:変異の出現率と疾患への影響

変異の出現率と疾患への影響

Kaiser J. Science 2012

不育症患者さんの妊娠・新生児の予後

不育症の患者さんは「こんなに流産を繰り返して、私の子供は無事に生まれてくるのでしょうか?」と言います。このClinical questionに対する答えを、エコチル調査を用いて調べてみました(図37、文献3)。不育症を経験した妊婦さんのお子さんは流死産の経験がない妊婦さんと比較して、先天異常、染色体異常、新生児仮死の頻度に差がないことが世界で初めてわかりました。男の子が少ないことが再確認できました。
不育症を経験した妊婦さんは、癒着胎盤、子宮内感染、血栓症を起こしやすいことが世界で初めてわかりました(文献3,40)。流産、死産、早産、妊娠高血圧症候群を起こしやすい、帝王切開になりやすいことが再確認されました。前置胎盤、羊水過少症、胎盤早期剥離の頻度に差はありませんでした。

図37

CQ こんなに流産を繰り返して、私の子供は無事に
生まれてくるのでしょうか?

Answer

不育症を経験した妊婦さんのお子さんは、
先天異常、染色体異常、新生児仮死の頻度に差がないことが世界で初めてわかりました。
男の子が少ないことが再確認できました。

不育症を経験した妊婦さんは、
癒着胎盤、子宮内感染を起こしやすいことが世界で初めてわかりました。
流産、死産、早産、妊娠高血圧症候群を起こしやすい、
帝王切開になりやすいことが再確認されました。
前置胎盤、羊水過少症、胎盤早期剥離の頻度に差はありませんでした。

ページ上部
へ戻る