名古屋市⽴⼤学 産科婦⼈科学教室

不育症・習慣流産のみなさんへ

9. 血栓性素因

◆プロテインC, プロテインS, アンチトロンビン、凝固第XII因子活性の測定は必要ありません。

抗リン脂質抗体症候群は胎盤の血栓(血がつまること)によって血液の流れが悪くなり流・死産を起こすと考えられています。同様に先天性プロテインC、プロテインS、アンチトロンビン欠損症という凝固抑制因子が減少している人は血栓症を起こしやすく(血栓性素因)、抗リン脂質抗体症候群と同じ機序で流・死産を起こすかもしれないと考えられました。しかし、大多数の流産は胎盤ができる前に起こるため、この理論では説明できません。抗リン脂質抗体が初期流産にも関与するのは血栓ではなく、胎盤のもとになる絨毛の増殖を阻害するためです。

1990年代に名古屋市立大学においてプロテインC、プロテインS、アンチトロンビン、凝固第XII因子の低下と反復初期流産の関係を調べてみました(文献10)。反復流産患者536人についてそれぞれの因子を調べ、各因子の低下した例と正常例についてその後の妊娠帰結を比較したところ、プロテインC、プロテインS、アンチトロンビンについては低下症例も正常例もその後の流産率に差を認めませんでした。そのため反復初期流産についてはこれらの検査は必要ないと考えます。

一方、凝固第XII因子の低下は反復流産患者の16%に認められ、低下している症例の80%(4/5)がその後に流産したのに対し、正常例では23.9%の流産率であり、第XII因子の低下はその後の流産の予知因子と考えました(文献10)。しかし、この論文の中でXII因子に関しては症例数が少ないため、追試が必要と考えていました。
そこで、凝固第XII因子活性と遺伝子変異について再検討しました(文献26)。APTTを用いたループスアンチコアグラントLA陽性の患者さんはXII因子活性が低下することが明らかになりました。前述の研究で「XII因子活性が低い人は流産率が高い」というのはLAの影響をみていたと思われます。そこで、LA陽性の人を除外すると反復流産患者では健常人と比較して遺伝子変異CTが高頻度でしたが、次回妊娠において遺伝子変異もXII 因子活性低下もまったく影響しないことがわかりました。
凝固第XII因子の測定には凝固第XII因子欠乏血漿が用いられます(図25)。調べる患者さんの血漿を加えて凝固時間APTTを測定すると、患者さんの凝固第XII因子の濃度に従ってAPTTが短くなります。凝固系はわずかな因子があれば滝のように凝固反応が進んで血液が固まるため、凝固系カスケード(滝)といわれています。患者さんの血液中にLAが存在するとAPTTは延長します。そのため、凝固第XII因子が低下したようにみえます。つまり、凝固第XII因子低下は実はLAの影響をみていることになります。LA陽性(抗リン脂質抗体陽性)の患者さんが流産しやすいのは抗リン脂質抗体のところで述べたとおりです。

LA測定の代わりに凝固第XII因子を用いる問題点を述べます。凝固第XII因子活性は遺伝子型によって制御されます。その平均活性はCC型126%、CT型89%、TT型65%です。凝固第XII因子活性が80%の人は、正常と判断しますが、遺伝子型がCC型であればLAの影響で活性が低下しているのですが、治療の機会を見落とすことになります。
逆にXII 活性が45%でもTT型であるなら治療の必要はありません。LAが重要であって、XII活性も遺伝子も測定の必要はありません。

不育症において、プロテインS 活性も遺伝子もそれらを調べて治療することで出産率が上昇したという報告がある一方、変わらないという報告もあります(文献27) 。
欧州生殖医学会、米国生殖医学会、米国産婦人科学会、米国胸部外科学会のいずれも「妊娠合併症を理由として血栓性素因を調べることを推奨しない」と記載しています(文献2)。日本産科婦人科学会診療ガイドラインでは2014年版から血栓性素因を調べることは削除されました。

図25:凝固第XII因子活性測定法とループスアンチコアグラントの影響

凝固第XII因子活性測定法とループスアンチコアグラントの影響

文献1から引用

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