5. 抗リン脂質抗体症候群の
治療
流死産予防としては低用量アスピリン・ヘパリン療法が標準的治療法であり、生児獲得率は70-80%です (文献16, 17)。基礎体温から正確に妊娠週数を計算し、妊娠4週から低用量アスピリン内服(小児用バファリン1®もしくはバイアスピリン®)とヘパリン注射を開始し、妊娠36週0日でアスピリンを中止、ヘパリンは分娩の3-6 時間前まで持続する方法を行っています。トレーニングをしていただくとヘパリンの自己注射は難しくありません(写真17)。抗リン脂質抗体が陰性で抗核抗体陽性の場合、薬物投与の必要はありません。
抗リン脂質抗体症候群の国際学会の診断基準を満たす場合には、抗リン脂質抗体症候群合併妊娠の適用によって妊娠中のヘパリン自己注射が保険適用されています。この治療が本当に必要な人は不育症の中でもさほど多くはありません。診断基準を満たしていない人は保険が効きません。12週間待つのは大変ですが、診断基準を満たすかどうかは重要なので再検査をお薦めします。
図17:低用量アスピリン+ヘパリン自己注射
診断基準を満たさない場合、つまり抗リン脂質抗体が陽性だったけど12 週間後に陰性になった偶発例では、流産予防が必要かどうかを調べてみました(文献18)。アスピリン単独投与群と薬なし50.0%(8/16)を比較するとアスピリン投与群の生児獲得率84.6% (44/52)の方が高いことが明らかとなりました。しかし、このような報告はまだ欧米ではないため、再検討が必要です。
従来使用してきた未分画ヘパリンに対してダナパロイド(オルガラン®)を用いた臨床試験を行いました(文献19)。オルガランは出血、ヘパリン惹起性血小板減少症、骨粗鬆症の副作用が少ないことが知られています。オルガランは未分画ヘパリンと同等の 効果でした。健康保険は適用されませんが、安全に使えます。
目 次
- 1. 不育症・習慣流産の定義とエコチル調査
- 2. 不育症の検査と原因
- 3. 抗リン脂質抗体症候群
- 4. 不育症における抗リン脂質抗体標準化の試み
- 5. 抗リン脂質抗体症候群の治療
- 6. 夫婦のどちらかの染色体均衡型転座
- 7. 染色体均衡型転座に対する着床前診断
- 8. 子宮形態異常
- 9. 血栓性素因
- 10. 内分泌異常
- 11. 原因不明習慣流産―胎児染色体異常流産
- 12. 原因不明習慣流産に対する着床前スクリーニング
- 13. 原因不明習慣流産に対する免疫療法
- 14. 原因不明反復流産に対する薬剤投与
- 15. 原因不明の原因探索
- 16. 精神的支援
- 17. 文献